2020年公開映画ベスト10です。
今年は92本みました。Twitterでも色々書いているのでよろしければ仲良くしてください。
ということで早速ですが発表いたします。
- 10位『シカゴ7裁判』
- 9位『音楽』
- 8位『サヨナラまでの30分』
- 7位『アンダードッグ』
- 6位『フォードvsフェラーリ』
- 5位『ソウルフル・ワールド』
- 4位『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』
- 3位『アルプススタンドのはしのほう』
- 2位『ジョジョ・ラビット』
- 1位『his』
- 番外編
10位『シカゴ7裁判』
1968年のシカゴ民主党大会で暴動を扇動したとして起訴された7人の裁判の行方を描いた実話系の作品です。
お恥ずかしいことに今作を見るまで実際の出来事は知らなかったのですが、えっまじ......?これ実話......?という衝撃がすごかった。
さすがにけっこう脚色してるでしょと思って鑑賞後に実際の事件を調べたら、ところどころの脚色はやっぱりあったけど、肝心のヤバかったところは全く脚色なしという二度目の衝撃。
公開時期的に考えて、もちろん大統領選に合わせた作品なんだけど、決してプロパガンダ的ではないし、むしろ民主党派に対する批判的な目も持っていました。
怒りに身を任せれば本来の目的や意思を見失ってしまうということに気づかせてくれる素晴らしい作品でした。
Netflix作品なので入っている人は是非!
9位『音楽』
時間がちょうどいい作品がこれしかなくてなんとなく観てみたらとんでもない傑作だったという最高の映画体験ができたのが今作でした。
岩井澤監督が約7年半をかけて全編ロトスコープ撮影で作り上げた大作。
シンプルの極致ともいうべき作品で、71分の中に込められた技術と努力は芸術の域に達しています。
また、物語のセンスも抜群で、不良三人組がひょんなことから楽器に触れ、初めて音を鳴らしたときの初期衝動を描くところからストーリーは始まるのですが、まさかまさかのその初期衝動のみでラストまで突っ走るという衝撃よ。
笑いも全然いやらしくなくてセンスを感じるし、もう全部好きですね。
この映画がツボにはまる人とは絶対に仲良くできる。
8位『サヨナラまでの30分』
映画『サヨナラまでの30分』本予告 2020年1月24日(金)全国ロードショー
正直1位でもいいくらい好きです。見る前は完全に舐めていたんですけど、エンドロール終わった瞬間土下座。
最高の音楽青春映画でした。
まず、なんといってもキャスティングが最高。陽キャの代表みたいなキャラに新田真剣佑、陰キャの代表みたいなキャラに北村匠海。最高でしょ。二人の声のマッチ具合も良かった。それから清原翔にベース持たせようと思いついた人に国民栄誉賞をあげたいです。
カセットテープというモチーフを中心に展開しながら、色彩や画面構成、音楽といった映画全体でストーリーを語っており、喪失と再生の物語としてこれ以上ないくらいによく出来ています。
4つの視点から語られる物語は交わりそうで交わらないまま進んでいく。そうやってレイヤーが何層にも何層にも積み重ねられていき、やがてある特異点で邂逅したとき涙ボロボロですよ。
こんなに泣かされるなんて思ってもいなかった。
楽曲も最高で、今でもspotifyで鬼リピしています。
7位『アンダードッグ』
前編と後編合わせての選出です。
ボクシング映画の新たな金字塔きちゃいましたね。
ここまで徹底して【負け】を描いたボクシング映画ってほとんどないんじゃないかなと思います。
前半は、肝心の試合場面が全然カッコよくなくて面白くないんだけど、それが伏線として消化されるラストの展開。大胆にお涙頂戴な展開をかますもそれまでの展開をみているせいで全然泣けないという構成には感嘆の声が出ました。
後半では女は男をケアする存在という男社会の呪いを破壊する冒頭で幕を開け、そこから徹底して男性性による幻想をぶっ壊してくる。その上で男が自分自身の力で立ち上がり現状を変えようとする物語を見せられるので号泣しかしません。
森山未來の演技が凄まじくって、負けになれてしまった男の虚無具合が半端なかったです。
負けを認めて自分の力で進みだした者だけが行ける世界。それは根性論や自己犠牲論なんかの話ではない。
負けを“受け入れること”と負けに“順応すること”の違いを教えてくれる映画です。
弱くても無様でもどんなに負けても、負け犬にはなるな。
6位『フォードvsフェラーリ』
これはねー熱いっす!!
アメリカ映画の全てが詰まっていた。あんまり車とかに興味のない僕でも夢中になってしまいました。
かっこいい車、爆音で鳴り響くエンジン音、泥臭い友情、意地と矜持の熱い物語、映画館で観ていて「うわーいま幸せだなあ」という多幸感に溢れた作品でした。
うわー!楽しい!!っていう大味なプロットの中に繊細さもきちんとあるのが素晴らしくて、感情の描き方とか、光や音の使い方がめちゃめちゃ上品なんですよね。
ブロマンス映画としても最高でとにかくもうはい、最高です。最高しか言うことありません。最高!!
レースの歴史を知っているひとやスポーツカーが大好きな人たちにはもちろんですが、僕みたいなスポーツカーに興味ない人にこそおすすめしたい映画です。あと円盤のスチールブックがめちゃくちゃ良かった。
5位『ソウルフル・ワールド』
超滑り込みのランクイン。
これピクサー最高傑作じゃないですか!?
映像・音楽・メッセージ性、全てが次の次元へ到達している。
過去22作の長編映画全てを内包し、23作目として新たな道を示してくれた今作はたしかに大人向けな作品ではあるんだけど、決して子どもの方を向いていないわけじゃなく、むしろ子どもの可能性を広げてくれるような映画だと僕は思いました。
ピクサーだからこそ重みがあるメッセージをここで打ち出してくるっていうのはさすがだなと。やっぱり頭ひとつ抜き出ていますよね。
夢や使命っていうのは生きる希望のひとつではある。けれどそれが全てではないんですよね。
良さげなことを語って他人の可能性を潰そうとしてくるクソインフルエンサー共に未来ある子どもたちが騙されないようにするためにも全小学校・中学校・高校で流してあげてほしい。
夢や使命至上主義の社会の中で押し潰されそうになっている人たちを救い上げるピクサーの新たな代表作です。
4位『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』
『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』予告編 - Netflix
Netflixさーん、しれっと大傑作出してこないでよ〜。もっと宣伝しないと。
愛の形は恋愛だけではないということを教えてくれる今作。家族愛、友愛、自己愛、様々な形を文学を通して語るという切り口がすごく好き。
また男女の間においても恋愛以外の答えを示してくれているのが素晴らしいです。個人的に男女の話になると何でもかんでも馬鹿の一つ覚えみたいに恋愛に結び付けてこようとする人がウザいので、恋愛と友愛、両者をちゃんと描いてくれたことにはすごくスカッとしました。
なにより好きなのが知性と勇気を肯定する物語であるという点です。本を読むこと、音楽を聞くこと、勉強することは人生を豊かにしてくれる。わからないことを学ぶことは恥ずかしいことじゃない。世界を学ぶことで初めて“愛”とはを知るんです。
よく言われる「勉強なんかして将来になんの役に立つの?」という疑問への答えのひとつがここにあります。あなたの知性を馬鹿にするやつがいたら心の中で中指たててそっとこの映画を教えてあげましょう。
人種も性愛も関係ない、“愛”の物語が次のフェーズへ進む時代が遂に来ましたね......!
3位『アルプススタンドのはしのほう』
舞台は夏の甲子園一回戦、全校応援のアルプススタンド......のはしの方。
自分には才能がなかった、運が悪かった、努力はしたんだから“しょうがない”と諦めてきた人たち、いつか報われるはずと努力し続ける人たち。全ての人へ贈る青春賛歌。
世間一般が思い描く青春。その中心にいた人もそこから外れてしまった人も全員肯定してくれる。誰のことも悪役に仕立て上げたり馬鹿にしたりしていないところが本当に好き。
情報源は登場人物のセリフや表情、球場から聞こえてくる音だけ。野球をプレーしている映像は一切描かれないのに、試合風景が鮮明に頭に流れてくるのは流石としか言いようのない演出力です。
画面には出てこない園田と矢野という野球部員がキーパーソンになるのですが、彼らの姿が劇中一度も現れることはないというのは『桐島、部活やめるってよ』に通ずる部分ですね。
僕がこの映画を好きな理由は学校的道徳規範を押し付けているわけではないという点ですね。別になんでもかんでも諦めるな、どんな人とも仲良くしろとか言っているわけじゃない。
嫌なら逃げてもいいんですよ。全校応援に来なくたっていいんですよ。
ただ諦めたくないことを“しょうがない”と理由をつけて諦めないで。卑屈を正当化する術なんていらない。
2位『ジョジョ・ラビット』
タイカ・ワイティティ監督がヒトラーに!映画『ジョジョ・ラビット』日本版予告編
タイカ・ワイティティ監督最高!!
今作は数多くあるナチスドイツを描いた映画のひとつなんだけど、他と少し違うのは明るくポップな世界であること。
主人公のジョジョは10歳の少年。彼の友達はなんとヒトラー。といってもジョジョが頭の中に作り出したイマジナリーフレンドで、ヒトラーはいつもジョジョ少年の背中を押すアドバイスをくれます。
そんな調子で、ポップにコミカルにジョジョとヒトラーの交友を描くもんだから「えぇ!?」と思うんだけど、今作は決してナチスを肯定する映画ではありません。
ジョジョがヒトラーを信仰するのも、ユダヤ人を差別するのもすべて環境のせい。
今でこそヒトラーが何をやった人でその結果どんなことが起きたのか分かっているわけですけど、当時の渦中にいた人たちには英雄に見えていたわけで特に子どもからしたら仮面ライダーとかと同じ存在なんですよね。そんな少年がユダヤ人の少女と出会うことで、次第に自分と向き合い、何が正しいのかを自分で考え見つけ出していく。
ナチスドイツに関わる全てを否定するのではなく、なにが悪くて何が悪くないかをちゃんと見極めたうえで否定しているんです。
すごく大事な視点だと思います。
子どもの目線で描かれる日常はPOPで楽しい気持ちになるけれど、戦争の怖い面が顔を出した途端に一気に恐怖が飲み込んでくる。それでも人の可能性を信じた今作は明るくて悲しくて恐ろしい、そして最高に優しい希望に満ちた映画です。
1位『his』
2020年ベスト映画1位は『his』です!
いやーもうオールタイムベスト級ですよ。
LGBTsを描いた数多くの映画の中でも一歩先を行く作品で、これから恋愛映画は次の時代へ進むんだなと思わせてくれる映画でした。というのも今作で描かれるのは肯定でも否定でもなく受容です。
わたしはあなたの存在を肯定するよ!とかLGBTsの人もいていいと思うとかじゃないんですよね。いるんだから。別に僕たちがどう思うかなんて関係なくて、当たり前にいるんですよ。
これまで様々なカタチの恋愛を優しく見守ってきてくれた今泉力也監督が『his』という作品を通してより多くの人たちを包み込んでくれたという印象です。
本作を現実と向き合っていないとかもっと大変な思いをしている人たちがいるという批判もありますけど、それは違うんじゃないかなと僕は思います。
現実の深刻さはちゃんと描かれています。それは迅が就職先の悪気のないゲイいじりや、渚の裁判での一連のくだりを見れば明らかです。それに迅が望んで田舎暮らしをしてるわけではないこと、カフカの『審判』を読んでいることなどからも読み取ることができます。
それに大変な思いをしている人がいるからこそ、映画を通した希望が必要なんじゃないですか。それが映画の力でしょ?って僕は思うんですけどどうですかね。
僕は今作は世界に出しても十分通用する映画だと思っています。マジョリティもマイノリティもない新しい時代を感じさせてくれる素晴らしい映画でした。
大大大大好きな映画です。
番外編
以上、個人的2020年映画ベスト10でした。書いていて気づいたんですけど、ベスト10に入るくらいの映画なのに全然感想記事書いてねえ......
来年はもっと書けるようにしよう。
正直10本に絞るとか無理な話で、ここに書いた以外にもおすすめしたい作品がたくさんあります。
実質1位枠とかたくさんありますよ。
『パラサイト』も1位だし、『ブックスマート』とか『のぼる小寺さん』とかも実質1位です。
『パラサイト』はみんな入れてるだろうから自分はいいやっていう理由で、『ブックスマート』は『ハーフ・オブ・イット』の中に、『のぼる小寺さん』は『アルプススタンドのはしの方』のなかに含まれています。
先に見たのがそっちで映画体験としての感動も大きかったという理由で全部同じくらい好き。
舐めててすみませんでした案件だと『浅田家』や『弱虫ペダル』『きみの瞳が問いかけている』とかは鑑賞後に心の中で土下座しました。あとは『ソニック』の中川大志さんの声優ね。あれも舐めてたけどめちゃめちゃ上手くてソニックそのものだった。
『37セカンズ』『ハスラーズ』『1917』『ストーリー・オブ・マイライフ』『エクストリームジョブ』『悪魔はいつもそこに』『レ・ミゼラブル』『ザ・ピーナッツ・バター・ファルコン』あたりはいつ心変わりしてベスト10入りしてもおかしくない傑作でした。
それから今回は誰がなんと言おうと俺は好きだ!という10位枠は設けませんでしたが、設けていたら『シライサン』『ゴーストホームアローン』『デッド・ドント・ダイ』のどれかが入っていたかな。
光あれば闇もありで、もちろんウーン......という映画もあったわけですが、そっちはワーストランキングの方で。
今年は新型コロナウイルスで軒並み新作が公開延期になるし、まるまる一ヶ月以上映画館に行けなかったりとかもあったので、来年こそはあのときの日常が戻ってくるといいなあ。
では、2021年もよろしくお願いいたします。