【感想・解説】ポリティカル・コレクトネスが残虐性を盛り盛りにする。映画『ハロウィン KILLS』

映画『ハロウィン KIILS』感想。(誰が死ぬとかは書いてないけど、途中からネタバレありです。ネタバレ部分に行く前にわかるようにはしてあります。)

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40年におよぶローリー・ストロードと“ブギーマン”ことマイケル・マイヤーズの因縁の戦いに決着はついたはずだった。しかし、悪夢は終わってはいなかった。ローリーの仕掛けたバーニングトラップから生還したマイケルは、過去を背負う街ハドンフィールドでさらなる凶行を重ねる。恐怖に立ち向かいブギーマンとの戦いを選ぶ者、その恐怖に耐えかね暴徒と化す者。果たして、ハドンフィールドの運命は!? そして、物語はついにブギーマンの正体に迫り新たな展開を迎えるー!!
公式サイトより引用

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1978年版の続編のリブートとして制作された『ハロウィン(2018年)』


狩られる者と狩る者を逆転させることで、見事に女性エンパワーメント映画として現代に蘇った同作。 エンタメ性も抜群なその優秀さに、これ以上やる必要があるのか?ここで終わっといた方がいいんじゃないの?とも思ったが、そんなものは余計な心配だった。


デヴィッド・ゴードン・グリーン版3部作の中継ぎとなる今作『ハロウィンKILLS』は、前作からさらにアップデートされ、こちらの予想を大きく上回る狂気とメッセージ性を孕んだ映画になっている。


特筆すべきはまず、目を疑うほどの残虐性。今作のマイケル・マイヤーズはとにかく殺って殺って殺りまくる。


殺りすぎてて「こんなに殺っちゃって大丈夫?」と心配になるほど。容赦がなさすぎる。

(C)UNIVERSAL STUDIOS


しかも、残虐であるにも関わらず、ポリティカル・コレクトネスを完璧に遵守しているのだからすごい。


というのも今作ではマイケル・マイヤーズの内面には一切迫らない。人が理解不能な純粋悪な殺人鬼として描かれるため、思想や信条を挟むことが一切ないのである


純粋悪だからこそ、平等。


年齢性別人種性的指向関係なくKILL!KILL!!KILL!!!


マイケル・マイヤーズという素材を最高の形で活かした上で、アップデートされた価値観に落とし込むという離れ業をさらりとやってのけるのだから脱帽する。


ロブ・ゾンビ版のようにマイケルの内面掘り下げるのではなく純粋悪として扱ったことで、ドラマ性のない作品になったのではないかと思うかもしれないが、そこも対策はバッチリである。


今作の構図はマイケルvs街。


1978年版での惨劇から40年、マイケルへの恐怖に囚われていたのはローリーだけじゃなかったことが冒頭で明かされる。1978年版の登場人物も次々と出てきて、あの日の惨劇を語る。ハドン・フィールドはマイケルへの恐怖が覆う町となっていたのである。


前作のラスト直後から始まる物語。ローリーたちの決死の戦いも空しく、マイケルは生き延び再び町の人々を殺し始める。


彼がこの町に再び現れたと気づいた町の人々はこの惨劇を終わらせるために動きだす。

(C)UNIVERSAL STUDIOS


ここで前作の大きな仕掛けであった、狩る側と狩られる側の逆転が再び起こる。マイケルが狩られる側へ、市民たちが狩る側へと変わる。


ただし、その意味合いは前作とは大きく異なる。


前作が描いたのがこの逆転現象における“正”の面であったのならば、今作が示すのは“負”の面である。


町を覆う恐怖はやがて憎悪となり、憎悪は人の底に眠る暴力性を呼び起こす。


今作のすごいところはここだ。要するに、前作の否定をしているのである。そもそも前作の直後から始まる物語という時点で、ローリーたちの決死の作戦は無駄だったというわけだ。


もちろんシリーズである以上マイケルがいないと映画が成立しないため、彼が生きていたという展開になるのは自明の理なのだが、ここまではっきりと“失敗”とする潔さはそう簡単にできるものではない。


そうしてハドン・フィールドに蔓延した憎悪はある事件を引き起こし、物語は最悪の結末へと向かっていく。


マイケル・マイヤーズの純粋な悪意は町を飲み込み、善良であったはずの人々に伝播する。(これが僕の観たかった『ジョーカー』だったなってちょっと思った。)

(C)UNIVERSAL STUDIOS


ーーー以下ネタバレありーーー




この、悪意の伝播という点で秀逸だと思ったのは、カレンの描き方である。


クライマックスで町の人々がマイケルを追い詰め、カレンが止めを刺そうとする瞬間に彼女の表情に注目すると、あの瞬間、彼女は笑っていた。それは恐怖が終わるからではない。明らかに暴力性に取りつかれた人の表情だった。


ここでも作品のキーとなっている逆転現象が起きている。


病院では、暴徒と化した人々から身を挺して無実の男を守ろうとしていた彼女が、こんなにもあっさりと暴力にとりつかれてしまうのだ。その後、マイケルの家でガラス越しに自分とマイケルの姿が重なる描写も非常にスタイリッシュである。シリーズを総括し、改めてハロウィンという作品の定義を示している。


暴力ではマイケル・マイヤーズは倒せない。では、どうやったら彼を倒すことができるのか。それはおそらく誰でも導き出せるだろう答えである。


人智を超えて恐怖のアイコンと成ったマイケル・マイヤーズを”人”に戻すこと。これがローリーたちに残された唯一の道であろう。


ただし、それをどうやって行うのかが次作の見どころだ。マイケルの過去を掘り下げるのか、それとも僕たちが想像もしていなかった方法があるのか要注目である。


一度成功した物語を自らの手で破壊し再定義することで、シリーズを何倍にも面白くさせて帰ってきた本作。


エンタメ性の裏に潜む緻密な構成に是非注目してほしい。

(C)UNIVERSAL STUDIOS