【感想】映画『HiGH&LOW THE WORST』 ハイローは日本を代表する映画シリーズだ。

※予告編でわかる程度のネタバレがあります。


ぼくはいま由々しき問題を抱えている。

10月4日問題

2019年10月4日は『ジョーカー』『ジョン・ウィック:パラベラム』『毒戦 BELIEVER』『HiGH&LOW THE WORST』など傑作の匂いしかしない映画が一気に公開開始する日なのである。

日本に住む映画ファン達は初日にどの作品から観ようか、あるいはこれだけの作品を1日でいっぺんに観てしまってよいのか1日1本にするべきではないのか、でも全部初日に観たい...と悩み頭を抱えているのだ(ぼくだけかもしれない)

あーでもないこーでもないと悩んでいるとある一報が届いた。『HiGH&LOW THE WORST』の試写会が地元の映画館で開催されるらしい。こんなの行くしかない。10月4日問題が少し解決するなら、楽しみの映画がいち早くみれるならと3800円という安くない金額を払い劇場へ足を運んだ。

以下映画の感想です。

『HiGH&LOW THE WORST』
2019/日本/125分
監督:久保茂昭
脚本:高橋ヒロシ、平沼紀久、渡辺啓、増本庄一郎
企画プロデュース:EXILE HIRO
音楽:中野雄太
アクション監督:大内貴仁
出演者:川村壱馬、吉野北人、前田公輝、山田裕貴、志尊淳、小沢仁志、塚本高史、福山康平、佐藤流司、うえきやサトシ、神尾楓珠、中島健、龍、鈴木昂秀、鈴木貴之、一ノ瀬ワタル、塩野瑛久、葵揚、小柳心、荒井敦史、坂口涼太郎、白洲迅、中務裕太、小森隼、富田望生、矢野聖人、箭内夢菜ー



あらすじ

“漆黒の凶悪高校”鬼邪高校。そこは定時制と全日制に分かれ、定時制の番長・村山良樹(山田裕貴)が鬼邪高校の頭を張っていた。鬼邪高の全日制に転入した花岡楓士雄(川村壱馬)は、いつか村山にタイマンを挑むべく、全日制の天下をとる野望を持っていた。全日制は、実力トップの強さを誇る轟(前田公輝)と芝マン(龍)、辻(鈴木昂秀)の轟一派、二年を仕切る中越(神尾楓珠)と一年を仕切る中岡(中島健)が率いる中・中一派、狂った戦い方で成り上がる泰志(佐藤流司)と清史(うえきやサトシ)が率いる泰・清一派、楓士雄と幼馴染の司(吉野北人)と手下のジャム男(福山康平)が仕切る司一派ら、新世代が覇権を争う戦国時代を迎えていた。

一方、やや離れた街・戸亜留市では、幹部以外全員スキンヘッドの最強軍団、鳳仙学園が勢力を強めており、リーダー・上田佐智雄(志尊淳)を筆頭に、小田島(塩野瑛久)、沢村(葵揚)、仁川(小柳心)、志田(荒井敦史)の四人からなる鳳仙四天王[通称・小沢仁志]と幹部のサバカン(坂口涼太郎)が、過去最強の布陣を揃えていた。そんな中、鳳仙の生徒が鬼邪高を名乗る者たちに突然襲撃され、時を同じく鬼邪高の生徒も鳳仙を名乗る者たちに襲われる事件が発生。仲間が襲撃されたことをきっかけに両校互いに敵対心を募らせてゆく。

個性派揃いだが圧倒的力を持つ鬼邪高校、一枚岩に組織化された鳳仙学園——。 夕暮れの河原で両校がぶつかり合う、世紀の頂上決戦が幕を開ける!(high-low.jpより)


映画『HiGH&LOW THE WORST』10月4日(金)全国公開(予告編)

この映画の見どころはなんといっても『ハイロー』と『クローズ』『WORST』がコラボするということ。

『クローズ』『WORST』とは高橋ヒロシ先生が描く日本を代表する不良漫画です。 それがハイロー世界に殴り込みにくるわけです。

クローズは過去に小栗旬や山田孝之などをキャストに据えて実写映画化もされており、今回鬼邪高校と戦う鳳仙学園は2009年に公開された『クローズZERO Ⅱ』で登場しています。

当時14歳で真の中二病だったぼくは鈴蘭高校vs鳳仙高校の激闘に胸アツどころじゃなかったわけです。思い出補正かかりまくりの大好きな映画です。

そんなクローズとハイローがコラボするってだけで最高なんですが、正直うまく混ざり合うのかなと心配でした。
どちらも不良作品ではあるんだけど実はテイストが違うので、クローズの高校がハイローの世界に存在することに違和感があるんですね。同じ成分ではあるんだけど味が全然違うみたいな。

それに鬼邪高校は好きだけど、鳳仙高校にも負けてほしくない。しかも鳳仙高校は過去最強なんて言うじゃありませんか。ぼくが熱狂した『クローズZERO Ⅱ』の鳳仙高校よりも強いんですよ。あの絶望感溢れる綾野剛よりも強いんですよ?下手したら過去のクローズ作品全てを汚されるぞ!なんて思っていました。

ですがそこはハイローシリーズでSWORDという5つチームの主人公たちを見事に扱ってみせた久保監督と脚本家チーム。さらにクローズの原作者である高橋ヒロシ先生が脚本に加わるということでぼくの心配なんぞ杞憂でした。

まあそうだろうなという展開ではありますが、クローズファンとハイローファンどちらも満足できる出来だったと思います。

1.ストーリー

いきなりスキンヘッドの軍団がぞろぞろと歩いている場面から始まるんですがこれがたまらない。クローズシリーズを知っている人はここでもうとワクワクが止まらないし、知らない人は「なんだこのやべえやつら...!」と一気に惹き込まれるはずです。
始まった瞬間こっちのボルテージは最高潮です。

そうして幕を開ける『HiGH&LOW THE WORST』

今作は鬼邪高のトップ争い、鬼邪高校vs鳳仙学園、希望ヶ丘団地幼なじみという3つのストーリーラインがあり、それぞれ話が進んでいくのですが、これがどこを切り取っても面白くてまさに全編クライマックス。

始まりから終わりまでずっと血肉湧き踊ります。

鬼邪高校でになるのは轟なのか、花岡楓士雄なのかはたまた泰清一派や中・中一派なのか。 村山率いる定時はどう動くのか。

そして最強の鳳仙学園に勝つことができるのかなど見どころしかないです。

ストーリーに関してさすがだなと思ったのが、「ハイロー」らしさと「クローズ」らしさのバランスです。

この3つのストーリーラインにはそれぞれ「ハイロー」としての役割「クローズ」としての役割が割り当てられています。

面白いのが、鬼邪高校にハイローらしさ、鳳仙学園にクローズらしさ、じゃないというところです。

クローズらしさを出しているのが鬼邪高、ハイローらしさを出しているのが希望ヶ丘団地、そしてその中間に位置するのが鳳仙になっているんですね。

このバランス感覚すごいと思うんですよ。
鳳仙学園にクローズらしさを任せないことで境界線が曖昧になり違和感なく2つの世界がコラボしてるんですよね。むしろ今回の鳳仙学園はハイロー世界に近い存在でした。

そして別々に進行していた3つのストーリーが合流してクライマックスを迎えるとさながらアベンジャーズを観ているような高揚感に包まれます。

ただこの3つのストーリー。さっきも言ったとおり、それぞれハイローらしさ、クローズらしさがあるので個々で切り取って観た場合テイストが全然違うんですね。

それを一つに繋げているのが花岡楓士雄というキャラクターです。

2.キャラクター

“鬼邪高校全日制”

今作の主人公である花岡楓士雄はある意味新しいタイプのキャラクターなのではないでしょうか。

かなりの王道キャラではあるんですが、意外とこのタイプの主人公って映画にはあまりいないんですよね。

過去のクローズシリーズで小栗旬、東出昌大が演じた主人公はクールなタイプの主人公です。 内に熱いものを持っているんだけど、どっちかというと一匹狼なタイプ。

ハイローシリーズも同じですね。 S.W.O.R.Dの各リーダー達も全員熱さが前面に出ているタイプではなくどこか達観していてクールなキャラクターたちですよね。

このように映像作品では熱さが全面にでているタイプのキャラクターって意外と少ないわけです。

そこに新しい風を吹かせたのが川村壱馬が演じる主人公花岡楓士雄です。

楓士雄はハイローの世界の人間でありながらその実すごくクローズっぽいキャラです。

THE・主人公。 細かいことは知らんけどとりあえず俺についてこい!みたいなタイプです笑

彼は作中唯一3つの物語全てに関わっています。川村壱馬さんの演技力のおかげでもあると思いますが、花岡楓士雄というキャラはどんなテイストの世界にいてもしっくりくるんですよね。

というよりはTHE・主人公の彼がバラバラの世界観を"花岡楓士雄"という世界観に引き寄せているんだと思います。

そして彼の存在というのは映画のテーマそのものにも直結してきます。





ハイローシリーズを見続けた人はこう思うのではないのでしょうか。 「轟は?轟が頭じゃないの?」

ぼくもそう思っていました。

村山と激闘の一騎打ちを繰り広げた轟がぽっと出のやつに負けてたまるか!と憤怒しました。

しかしこれが大きな間違い。

楓士雄の存在がより轟のかっこよさを引き立てています。

楓士雄の存在により、「頭」とはなんなのかを問われることになる轟。 これはやがて映画全体のテーマとなっていきます。

強さだけが「頭」なのか。楓士雄にあって自分にはないものはなんなのか。村山を越えることは果たして自分にできるのか。ドラマでは『君主論』を読んでいた轟がその問いにどう向き合うのかは見ものです。

ちなみに今作でも轟のキレッキレの戦闘を拝むことができるので轟ファンは安心してください。

あと過去作では見せ場の少なかった轟一派の芝マンと辻、彼らも今回は存分に魅せてくれます。

その他、司一派、中・中一派、泰清一派がどう動くのかも注目です。 ぼくは泰清一派が好きですね。


“鳳仙学園”

今作で鬼邪高と戦うことになる『クローズ』『WORST』からの刺客、鳳仙学園。

映画『クローズZERO Ⅱ』では主人公が所属する鈴蘭高校のライバル校として登場し観客の心を鷲掴みにしました。

幹部以外スキンヘッドという設定がもう強いです。

ただぼくはここでも映画老害っぷりを発揮して、過去最強ってなんだよ!鳳仙のトップは金子ノブアキなんだよ!と怒っていたわけです。





志尊淳、最高です。

めちゃめちゃかっこいい...





志尊淳は優しい役でしか観たことなかったのでこのギャップには瞬殺されました。 外見からすごく強そうなオーラがでてるんですね。

そして実際めちゃめちゃ強い。 簡単には鬼邪高校に最強の座は譲らないという気概を感じます。

志尊淳演じる鳳仙学園のトップ上田佐智男は花岡楓士雄とは対になるような人物として描かれています。

楓士雄が自ら先陣をきって敵に突っ込んでいくリーダーであるのに対して佐智男は後ろでどっしり構えて敵を迎え撃つリーダーです。

また、"頭"の資質とかよくわかんねーけどみたいなタイプである楓士雄に対して、佐智男は常にトップでいることの責任や姿勢を考えているタイプ。

ここまで言えば気づく方もいると思いますが、上田佐智男はすごくハイローっぽい人物なんです。

"ハイロー"の世界の住人である"クローズ"っぽい花岡楓士雄と"クローズ"の世界である"ハイロー"っぽい上田佐智男。

妙技です。


そして彼の下に君臨する幹部が鳳仙四天王、通称「小沢仁志」

四天王である小田島、沢村、仁川、志田の各頭文字をとって「小沢仁志」です。

アホすぎるリスペクトの贈り方で最高。

ぼくは四天王ですごく好きな人物がいまして、塩野瑛久演じる小田島有剣です。

金髪ロン毛で後ろで結んでてサングラスを掛けてるのは圧倒的勝利。

彼のスピンオフが観たいくらい好きです。 彼の活躍を刮目して見よ。


“希望ヶ丘団地幼なじみ”

この映画において「ハイローらしい」物語を一手に担っているのが彼らです。

不良達と優等生というチーム構成がもろ山王連合ですね。

ドラマの1stシーズンを思い起こさせるような希望ヶ丘団地幼なじみですが、二番煎じにしないのが久保監督と脚本家チーム。

コブラがあのときできなかった選択、願っていた未来を体現していくような、ある種のIf物語を観ているような気になります。

また、山王連合の幼なじみ3人を思いこさせるような作りをしているのは新規の人をハイローの世界に引き込むためでもあると思います。

似たメンバー構成でハイローらしいストーリーを描くということは、この作品から「HiGH&LOW」に興味をもってドラマを見始めたときにすっと世界観に入り込めるような仕掛けになっているんですね。

新たなファン層を確実に取り込むことにも抜け目ない制作陣...


“鬼邪高校定時制”

俺らの鬼邪高はこいつらなんだよ!っていう感じですね。

ぼくがこの映画一番の良かったところは、村山の「いくぞてめえら!」が聞けたことなんですが、そのときに古屋役の鈴木貴之さんが素で嬉しそうな顔をしてたのがとにかく最高だったんでみなさん見逃さないでね。

本当にただの憶測でしかないけれど「HiGH&LOW」シリーズでは当初鬼邪高校にこんなスポットを当てる気なんてなかったと思うんですよ。

それが山田裕貴さんの熱演によってここまでの流れを呼び寄せたのだと思います。

シリーズ通しての山田裕貴が持つパワーっていうのは本当にすごかった。

そんな村山率いる定時制メンバーですが、今回は主人公たちに進路を示す立場として登場します。

彼らがでてくることで、映画の持つメッセージが明確になっていきます。

そして今回村山は関虎太郎のお父さん(本物の小沢仁志)の職場でアルバイトをするのですが、村山はそこで働くことで自分自身の道とも向き合うことになります。

定時制メンバーが全日制にどんな道を示すのか、そして彼ら自身はどんな道を進むのか是非その目で見届けてください。

3.アクション

ハイローシリーズの見どころといえばなんといってもアクション。

しかし幅広いジャンルのアクションを取り入れていたハイローシリーズに対して今回は舞台が縛られていることもあってアクションに制限があります。

拳で殴り合うというのがほとんどになるわけです。

それなのに様々な工夫と創意によって、今回も言葉がでない程の圧巻のアクションがつくりあげられているのでした。

今回メインのアクションシーンは3つ。

村山と轟が再戦する"体育館の決闘"
鬼邪高と鳳仙学園が遂にぶつかり合う"河川敷の合戦"
クライマックス、団地を舞台にした"絶望団地大決戦"

それぞれものすごいアクションシーンになっています。

“体育館の決闘”

予告編からもわかる通り村山vs轟の再戦です。

一回やった組み合わせでどう戦わせるのかなと思っていたらすごくスタイリッシュに進化していて感動しました。

やじ馬をギミックにして戦うことで動きと立体感をだすというアイデアっぷり。 ありそうで観たことのなかった戦闘シーンに仕上がっています。

村山と轟がかっこよすぎてぼくの脳内チンパンジーがひたすら手叩いてました。

“河川敷の合戦”

次に河川敷での鬼邪高vs鳳仙学園です。

予告編でもたっぷり使われているこの場面はとにかく意味がわかりません。 どうやって撮ってんのという画の連発です。

もはや芸術の域に達しているカメラワーク。 かっこいいとか通り越して美しい...

戦い方で創意を凝らしスタイリッシュに仕上がっていた体育館でのシーンとは逆にここは戦い方自体はオーソドックスな泥臭い殴り合いになっています。

しかしそれをとんでもない撮り方で昇華させることでこれまた観たことのないアクションシーンに仕上げるという、この2つだけで「ハイロー」シリーズの幅広さを体感することができます。

この場面ずっと観てられる。 テンション上がりすぎてぼくの脳内チンパンジーが飛び跳ねてました。

“絶望団地大決戦”

最後に絶望団地での決戦です。

ここでは団地というロケーションを十二分に活かした戦いが繰り広げられます。

クライマックス、上記2つの戦いの良いところを合わせて、さらに2つにはなかった高さが加わります。

さらに相手をどう切り崩すかというような戦国時代物や三国志にありそうな頭を使った(?)戦いも観ることができます。

興奮が絶頂をむかえたぼくは理性を失ったチンパンジーでした。


この3つの戦い、全て拳で殴り合うという同じ戦闘方法なのにすごい幅広さを感じることができました。

アクションを観に来るだけでも1800円の価値があると思います。

4.不満点

仕方ないといえば仕方ないのですが、登場人物が多いゆえに一人ひとりにスポットが当たりにくいという不満点はありました。

もっと各キャラの戦闘シーンを観たかったですし、幹部キャラ同士の一騎打ちというのをもっとじっくりと観たかったです。

あー!もっとその人の活躍見せてよ!!っていうのが多かったですね。

あとはジャム男対サバカンが観たかった。

5.まとめ

不満といってもそんなもんで、それ以上にやばいもんを観てしまった!!という興奮が強く大満足でした。

とにかくアクションがもの凄くて今まで観たことない大迫力の映像になっています

話の落とし所もぼく的には満足できるもので、よくある結論をなあなあにして誤魔化すみたいな終わり方じゃなかったので良かったです。

今作はシリーズを観たことない人も大歓迎の作品となっているので是非この機会に沼にハマりましょう。