【感想・解説】Netflixドラマ『今際の国のアリス』に宿る美しいメッセージ性と破格の映像クオリティに涙する

こんにちは。


この間、車を運転していたら前を走っていたトラックの荷台からでっかい板が落ちてきて死ぬかと思いました。車間距離をちゃんととっていてよかったです。僕が煽りドライバーだったら、気づいたら知らない場所にいて何が何だか分からないままゲームが始まってイキったこと言って死ぬパターンのやつでしたね。くわばらくわばら。


今回はNetflixオリジナルドラマ『今際の国のアリス』の感想です。


週刊少年サンデーで連載されていた同名漫画の実写化作品で主演を山崎賢人、土屋太鳳が務めています。


前半はネタバレなし、途中からネタバレあり。
【物語の起点となる1〜3話】というところからネタバレします。


直前にもう一度忠告はしますが、ネタバレが嫌な方は気をつけてください。




『今際の国のアリス』

監督:佐藤信介
脚本:渡部辰城、倉光泰子、佐藤信介
原作:麻生羽呂「今際の国のアリス」(小学館「少年サンデーコミックス」刊)
音楽:やまだ豊
撮影監督:河津太郎
美術監督:斎藤岩男
アクション監督:下村勇二
出演:山崎賢人、土屋太鳳、町田啓太、森永悠希、村上虹郎、三吉彩花、桜田通、朝比奈彩、柳俊太郎、金子ノブアキ、青柳翔、水崎綾女、仲里依紗
企画・制作:ROBOT




『今際の国のアリス』 予告編#2 - Netflix




原作へのリスペクトもあってクオリティも高い素晴らしいデスゲーム作品!


週刊少年サンデーで連載されていたデスゲーム系漫画を実写化した今作、漫画の方は大学生の時にと友人に単行本を借りて読んでいました。


まあ当時読んだきりで読み返していないので細かいディテールは曖昧なんですが、すごくおもしろかったしこれを機に読み直そうかな。


で、実写ドラマ版なんですが......


面白かった〜!


ちゃんとお金かけてて、ちゃんと人物描写ができていて、ちゃんと人が死ぬ。


残念な作品もかなり多い日本デスゲーム界の中でも素晴らしい枠の方の作品ですね。


映像クオリティもすごいし、ビジュアル的にもすごく楽しかったです。


デスゲーム作品の魅力っていうものが全て詰まっていたと思いますよ!



あとみんなが気になっているのはたぶん原作に忠実かどうかですよね......


原作へのリスペクト...... 感じました。


ドラマ版はかなり原作に忠実だったんじゃないかなと思います。


原作漫画からの大きな変更点は、
・主人公が高校生から成人に変わっていること。
・アリスたちが最初に挑戦するゲームがドラマオリジナルゲームになっていること。
・原作特別編で描かれたゲームがアリスとウサギが挑戦するゲームになっていること。
・ビーチの幹部が一人いない

くらいじゃないですかね。もっと細かな変更点はあると思うんですけど、さっきも言った通り細部まで覚えていないので他にもあったら申し訳ないです。


とにかく実写化成功パターンだと思いますよ。さすが佐藤信介監督......!!


なんていえばいいんだろうな、世界観が現実よりなパニック系アクション作品の実写化はすごく高水準な作品を撮りますよね。


『アイアムアヒーロー』とか『いぬやしき』とかさ。


アクションの見せ方が素晴らしいですし、画面の構図も完璧で魅入ってしまう良さがあるのがこの監督の特徴だと思います。


とにかく映像クオリティがすごくて、そこに感情を結びつけるのがめちゃめちゃ上手いんですよね。


で、ご多分に漏れず今作もそこは活かされていて。3話、7話あたりはほんとにほんとにほんとに最高でした。


銃火器の扱いなど、作品のリアリティラインとしてそれはどうなんだろうと思うところはありますが、デスゲーム物のご愛嬌といえばそれまでなのかな笑


まだ観ていない方は血が苦手とかじゃなければとりあえず3話くらいまで見てほしい。


超おすすめです。




ということでここからはネタバレありになります。


まだ観ていないよって方、ネタバレが嫌だって方はここでブラウザバックしていただければと思います。

鑑賞後にもう一度読みに来てくれると嬉しいです。


この先も読んでいただける方はよろしくお願いいたします。

あなたの感想も是非聞かせてください。




物語の起点となる1〜3話


物語導入部となるのが1〜3話。起承転結の【起】ですね。


まずすごいな!と思ったのが渋谷の街並み。冒頭の時点で映像クオリティがすごすぎて感動します。


調べてみると栃木県足利市に作られたセットなんですね。現在公開している『サイレント・トーキョー』という映画と中国映画の共同出資で作られたセットみたいです。


こういうの今後も増えていってほしいな。間違いなく邦画のレベル爆あがりしますし、気兼ねなく渋谷みたいな街を撮影できるってなったらみんなが嫌いなトンデモ日本描写も減ると思いますよ。


話を戻して、今際の国でゲームっていうのは大まかに4種類に分けられていて、



体力や身体能力が必要な【♤】のゲーム。
知識や頭の回転が必要な【♢】のゲーム。
チームワークが必要な【♧】のゲーム。
強い精神力が必要な【♡】のゲーム。


この四つにゲームの種類が分けられていて、各々の特徴を説明するのが1〜3話の中で行われるゲームですよね。


物語の設定を説明すると同時に、今際の国の秘密を解き明かすヒントを散りばめていくっていうのがこれらの話の役目なんですけど、ドラマとしてこういう感じでやっていくよという姿勢を示す役割もあるわけです。


例えば二つ目のゲームの【おにごっこ】はまさにそうですよね。


物語の設定としてはヒロインのウサギや後のキーパーソンとなる人物であるアグニやチシヤの登場。どうやらゲーム側の人間として参加しているプレイヤーもいるということなど。ここで色々なことがわかりますね。


またドラマの姿勢を伝える役割としては、アクションを見せていきますよというのがここからわかりますよね。


マンションの階の上下を活かしたクライミングアクションだったり、せまい空間での格闘戦、銃撃シーンに力を入れていますよということをあそこで視聴者に示しているわけです。


ここがすごくスマートで、デスゲーム物としての面白さを損なうことなく自然に全部説明しているんですよね。


ルールも完璧には説明しないところもいい。

敵側はどんなルールで動いていたのかは説明されないけど、おそらくクリア条件は部屋のボタンを押されないことと逃げる側を全員殺すことで、ボタンは押されないけど皆殺しができなかった場合はマンションが爆発して鬼側も逃げる側も全員死ぬパターンなんだろうなっていうのがキャラの動きだけでわかるのが素晴らしいですよね。


そしてあの3話ですよ......




最低最悪で最高な3話


で、アリスと悪友のチョータ、カルベの3人がゲームに巻き込まれていくというのが1〜3話なわけなんですけど、中でも3話が最悪オブ最悪で最高なエピソードなんすよ。


3話の役割は作品のテーマを伝えることです。 このドラマのテーマっていうのは“生きる覚悟”“過去とどう向き合うか”ということですね。


主人公が生きる覚悟を決めるきっかけというデスゲーム物では必須なシーンをこういう形で見せられるとは......


エグいにも程があるよ......


単純に親友が死ぬとか、殺し合いをしないといけない状況になるとかはよくありますけど、ここまで命を弄ぶ形で描かれるのは中々ないと思います。


というのも、【かくれんぼ】が始まる前とゲームの最中、これでもかというくらいに命の優劣について語られるじゃないですか。


良い大学に通っているほど偉い、大企業に務めているほど偉い。

強いほうが偉い、お金を持っている方が偉い、頭がいいほうが偉い。


そういう価値観の中で僕たちは無意識に自分と他人の間で優劣をつけているわけです。


それを視聴者に突きつけた上で、ゲームが始まる。


生き残れるのは4人の中でただ1人だけ。


自分が生き残るためには親友を見殺しにしなければならない。

生き残るに相応しいのは誰なのか。自分の命を犠牲にしてまでも守る価値があるの友達なのか。


視聴者の倫理観をぐらんぐらんに揺らしてくるんすよ。


だから、あの中では悪役枠なシブキをどうしても悪だとは思えないんですよね。


だって生きたいじゃん。命を天秤にかけられたら自分の価値を証明するしかないじゃん。


でも目の前にはそんな時でも友を想う人たちがいるわけですよ。


あゝ浄化されていく。


自分が間違っていたとは思わないけどもう大丈夫。


この死は諦めじゃない、生きる覚悟の末に選んだ“死”だ。


余計な演出を入れることなくシブキの一連の変化を描く手腕、アリス・チョータ・カルベの3人の友を生かしたいという覚悟。


この上なく美しく涙が止まりませんでした。




物語が動き出す4~5話


チョータとカルべを失って絶望するアリスと、最悪オブ最悪な展開を見せられて絶望する僕の姿がリンクして始まる第4話。


ここからはアリスがウサギと再会し今際の国で戦う覚悟を決めるまでと、次の鍵となるビーチの存在について解き明かしていくパートになります。


ここで描かれるゲームは漫画の特別編で描かれた【らんなうぇい】というゲームを持ってきた形になっていて、オリジナルとは展開が異なる箇所の一つとなります。


これを本編に持ってきた理由はおそらく映像として映えるからでしょうね。


実際にトンネルを封鎖して撮影されたというこのパートは確かに見応えあります。


あとは狙ったのかどうかはわからないですけど、完全に今のコロナ禍の状況が反映されていますよね。


安全を求めて動けば動くほど死に迫るという。バスから出ずにじっと耐えることが生き残る鍵っていうのはまさにじゃないですか。


わざわざディスタンスという単語を強調していたあたりから狙ってんじゃないかなーとは思いますけど。


それからたぶんシーズン2に向けての布石でしょう。


彼はおそらく、原作から改変されていなくなったキャラのポジションになるのかな。それか絵札軍団の一人パターンでしょうね。


たぶんどっちかです。


5話はついに“ビーチ”を突き止めたっていう話ですが、ここから一気にギアが上がってエンタメ色が強くなります。


ビーチの幹部連中のいかにも感とかめちゃめちゃ好きだし、はいはいここからクライマックスに向けて動き出しますよ〜!っていうのを隠さないのも潔くて良いですよね。




怒涛のクライマックス6〜8話


6話からはクライマックスの展開に入り、一気にケレン味全開になります。


ごつめのライフル銃片手に持って、もう片方の手でマシンガンをぶっ放す元いじめられっ子とかツッコミどころもありつつな感じでおもしろいです。


銃で打たれたらめちゃめちゃ吹っ飛ぶとか。


正直そこもリアルにこだわった上でのケレン味とかにしてほしかったなーとは思いますけどまあご愛嬌ですね。


このパートのおもしろさは、なんと言ってもバトル漫画のチーム戦感です。


主人公側のキャラと敵側のキャラたちが一対一で戦っていく感じ。


しかも主人公サイドのやつらが、普段はライバルキャラだけど......みたいなやつね。


「NARUTO」の vs音の四人衆みたいな熱さがありました。


中でも7話が素晴らしすぎる。


空手水着美女 対 日本刀全身タトゥースキンヘッド男っていうビジュアルの良さよ。



最 to the 高


このビジュアルだけで100点満点中の300点ですね。


ただね、ここビジュアルにばかり注目しがちなんですけど、メッセージ性もかなり秀逸で、すごく多層的なことをやっているんです。


軸となるのはさっきも言ったように「生きる覚悟」と「過去とどう向き合うか」の2つですね。


ニラギにラスボスにクイナ、全員後ろ暗い過去を持っています。


彼らの明暗を分けるのは、過去を背負って否定するのか、それとも過去をなかったことにして否定するのか。この選択の違いですね。


どうやっても過去は消せないんですよ。


そしてそれはそのまま【かくれんぼ】で親友をなくしたアリス、親が不祥事の濡衣を着せられ人生が一変したうさぎにも通じて来ますし、なにより【魔女狩り】で人を殺すことを選んだ人たちが今後どうそこに向き合っていくのかということに繋がっていくわけですね。


第2シーズンではさらにそこが強調されていくと思います。


それで、さらにさらにですよ。ここにもう一個様々な社会問題を乗っけていますよね。


いじられっ子がいじめっ子になってしまうことや、カルト宗教の光と闇とか、ジェンダー問題とか。


しかもそのどれにも真摯に向き合って答えを出しているんですよ。


物語の仕掛けとして、コンテンツとして消費しているわけではない。


そういうのをサラッと自然にやっているので本当にすごいドラマだなと思います。


映像がすごい!とかだけで終わらすにはもったいなさすぎる作品です。




第2シーズンに向けて


ラストで実はゲームの運営に関わっている人間がいるということが判明し、絵札を持つ12人とプレイヤーたちが戦うネクストステージが始まるというところで第1シーズンが終わります。


第2シーズンは運営側とプレイヤーが絵札をかけて戦うというストーリーになるのは予想に難くないですね。


大事なのはそこにどういう肉付けがされるのかということです。


そこで、第2シーズンを読み解くヒントとして考えるべきことはこれなんじゃないかということについて少しだけ話したいと思います。


先述した通り、今作のテーマは「生きる覚悟」と「過去への向き合い方」です。


そしてこの二つっていうのはイコールで繋がっています。


生きる覚悟を持つこと=過去へ向き合うことという構図になっているわけです。


それで、ここからが大事なんですけど、必ずしも生きる覚悟を持つ=生き残るというわけではないんですよ。


この作品のメインキャラクターたちに焦点を当てると、死んだ人物もまた過去を精算し生きる覚悟を持った人たちなんですね。


生きる覚悟を持って死を選択するということです。


つまり死ぬのにも生きる覚悟を持たなければいけないということですね。


これ例外なく全員そうです。


ラスボス違うじゃん。と思った方もいると思いますが、実は彼もそうなんです。


あいつはクイナに負けた後に自分の過去を思い出していましたよね。その上でそれでも俺はこの自由な国で生きたいと感じながら死んでゆくじゃないですか。


ちゃんと過去と向き合ったんですよ。向き合って、過去はあったものとして捉えた上で今際の国を選ぶ。


だから死の描写がちゃんと描かれたわけです。


過去を受け入れるということは自分を肯定するということです。


本来生まれてくることに意味なんてものはありません。それでもほしいのなら自分で自分を肯定する以外ないんですよ。


そういうことを踏まえると、一方で未だ過去と向き合っていない人物がいますよね......


なんとなくシーズン2の軸が見えてきたのではないでしょうか。


違ってたらごめんね。




終わりに


以上、ドラマ『今際の国のアリス』の感想でした。


NETFLIXというプラットフォームが如何に作品作りに貢献しているかというのがよくわかる作品でしたね。


久々に邦画で面白いデスゲーム物みたなーって感じです。


僕の超個人的な面白いデスゲーム物の定義って、上品さを感じるかどうかなんですよね。


人が死ぬ、殺し合うっていうルックの裏に何を描くかっていうのがすごく大事だと思っています。


深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』とかはまさにドンピシャでオールタイム・ベストに入るくらい好き。


でね、『今際の国のアリス』は匹敵するほどとまでは言えないけど、『バトル・ロワイアル』を見 たときのような感動があったんですよ。


だから嬉しくて涙でちゃった。


漫画は読んでいたけど、こんなゲームがあったとかこんな人いたよなーくらいにしか覚えていなかったので、これを気に読み直そうかな。


まさかまさかの大当たりで、大成功な漫画実写化じゃないですかね!


おすすめ!では!