世の中にはモックバスターと呼ばれる映画があるのを知っていますか?
大ヒットした映画に便乗して、似たようなタイトルだったりプロットで作られる映画のことです。
いわゆる模倣映画や便乗映画、パクリ映画ですね。
有名どころだと、『トランスフォーマー』に便乗した『トランスモーファー』、『アイアンマン』に便乗した『メタルマン』とかでしょうか。
クソ映画だなんだと揶揄されることが多いですが、ある種の文化として受けられており、熱狂的なファンもけっこういます。ただ、賛否は当然あって実際に訴訟も起きたりしています。
そんな便乗映画こと、モックバスターですが、日本で観られる作品に関しては大きく二つに分けることができます。
一つは、はなから便乗する気満々で作られた映画。便乗映画として作られて、便乗映画としてリリースされた作品です。もう一つは、日本でリリースされるにあたって、勝手に便乗邦題をつけられたパターン。
前者は始めからクソ映画として作られているのでまあいいんですけど、問題は後者のパターンです。
後者のパターンって、だいたい製作者はそんなつもりで作っていないんですよ。全然違う映画なのに勝手に便乗映画にされてクソ映画認定されてしまう映画。
ちゃんと観た上で評価されているんならいいんですけど、残念なことにそうじゃないことの方が大半なんですねー。
そもそもなんでモックバスターがこんなに大量にリリースされていると思いますか?
答えは簡単で、その方が売れるからです。
いや、便乗映画なんて売れるわけないじゃんwwwと思ったそこのあなた、浅いですねw
こんな経験ないですか?レンタルビデオ店で、あの映画もうリリースされてるの!?と思って手にとってみたら全然違う映画だったみたいなこと。
いるんですよ、勘違いして借りちゃう人。しかも一人や二人じゃなくて大量に。
だから、どうせビデオスルーで注目されない映画なら、便乗タイトルをつけて少しでも借りる人を増やそうっていう魂胆の元、本当は全然違う映画でそもそも制作サイドは大真面目に作っているのに、便乗邦題をつけられるっていうことがしばしば起こるわけです。
で、これによってどんなことが起こるのかという話なんですけど、こういう作品を見る人ってだいたい2パターンに分けられて、
①便乗元の作品と間違えて見ちゃった人。
②分かっててボロクソ言ってやろうと思って見る人。
だいたいこの2パターンです。
中には、そういう映画が好きで観ている人や、ちゃんとフラットな目線で観ている人もいますけど、全体で考えるとそう多くはないと思います。
それで、①の場合は、見始めてから「あれ?これ違くね?騙された!」ってなって低評価をつけます。②の場合ははなからボロクソ言うつもりだからちゃんと観ているわけもなく、低評価をつける。
その作品を事前に調べてみた人は、あまりの低評価っぷりに観るのを辞めて、また①と②のパターンで見た人に低評価をつけられて......の悪循環が生まれてしまうんですね。
可哀想じゃないですか。そんなつもりで作ってないのに、勝手につけられたタイトルと煽り文句で「全然違う映画だった!」とか言われてゴミ扱いされるの。
つまり、本当はおもしろいのに、邦題に殺された映画っていうのが世の中にはたくさんあるわけですよ。
もちろん案の定おもしろくなかったっていう映画もたくさんあります。というかそっちの方が多いです。
でも、だからこそなんですよ。
注目されている映画、おもしろそうな映画を選んで良作と出会うのも最高です。けれど、ゴミだと思ったものの中からお宝を見つけ出した時の喜びもまたひとしおなのです。
ということで、前置きが長くなりましたが本題へ入りたいと思います。
今回はある大ヒット映画の便乗タイトルをつけられてしまった4作を紹介します。おもしろかったものもあればおもしろくなかったものもあるので、是非参考にしてみてください。
で、自分の目で観てみてください。
ちなみにネタバレはしていないので安心して読み進めて下さい。
では、クソ映画の沼へいざ。
今回紹介するのは以下の4作です。
そうです。2018年に劇場公開され、大ヒットした『クワイエット・プレイス』の便乗でございます。
“音を立てたら即死。”というキャッチコピーの下、出産の痛みに必死に耐える主人公の予告映像で話題になり、結果として大ヒットした今作。
ホラー×大ヒットなんて格好の餌食です。ご馳走中のご馳走。
ということでまずはパッケージを見てみましょうか?
やってますね〜。見事に全部女性が口元を手で覆っています。
キャッチコピーはパクってるのもあればそうでないのもありますけど、便乗して売る気満々です。
これらは果たして本当に便乗映画なのか。それとも邦題に殺された哀しき映画たちなのか......
『クワイエット・フィールド』
一本目はこちら。
「匂いを残したら即襲」、「匂いを放つと“何か”がやってくる。新感覚ホラー・アクション!!」らしいです。
映画を観れば、煽り文が間違っていないことはわかります。
ただ......ただね......
匂いは“クワイエット”じゃなくね.....?
スカしっ屁的なことですか?
“何か”ってう〇このことですか?便意が即襲するってことですか?
僕にはわかります。僕がふざけていると思っているあなた、これ、絶対に狙ってますから。バレないように、巧妙な手口で、確実にやってます。
邦題に殺されるってこういうことなんですよ。可哀想に。自分の作った映画が海外でこんな遊ばれ方されているなんて思ってもないでしょう。
原題は『Red spring』 便乗のビの字もありません。そもそも製作年が2017年なので、便乗するもなにも、こっちの方が先輩です。
なので、内容は『クワイエット・プレイス』とは似ても似つきません。
じゃあいったいどんな話なのかというと、突如出現したヴァンパイアによって荒廃した世界で、男女6人が生き残ろうとする映画です。
ヴァンパイアは嗅覚が鋭く、少しでも匂いを残すと居場所を嗅ぎ付けられ襲われます。だから「匂いを残すと即襲。」なわけですね。
はっきり言って、トータルではおもしろくはないんですけど、でも部分部分で光るものもあって全く楽しめないわけではないです。意外と最後まで観てられます。
今作はヴァンパイアの設定がすごく良くてですね、まず、見た目が完全にウォーボーイズです。
観ればわかります。完全にV8を讃えています。
で、このウォーボーイズヴァンパイアなんですけど、すごく頭が良いんですよ。車を運転したり銃を使ったりもします。暗闇に潜んで人間を待ち伏せしたりもします。
極めつけはめちゃめちゃ煽ってきます。前日の夜中にこっそり来て、壁に「明日の夜が楽しみだね♡」みたいなことを書いて、一旦帰るとかしてきます。
ただ、可愛いところもあって、壁にメッセージを残して煽るのはいいんだけど誤字ってたり、ドクロのキーホルダーを見せて挑発してくるんだけど銃を向けられてるのに気づくとめちゃめちゃ慌てて逃げたりするんですよ。
それから、すごくキレイに人間を食べます。
襲うときは「あーこれは腸が飛び出たりして食い散らかされるんだろうな」って思わせるような襲い方をするんですけど、いざ食後を見てみると傷もほぼなく、とても上品な食べ方をしているんですね。
血を吸うための最低限の傷しかつけない。マナーが素晴らしい。
あとは、ヴァンパイアといえば日光が弱点という設定だと思うんですけど、今作でもその設定はちゃんとあります。
あるんですけど、「うわっ眩しっ!!今日日差しつえーなあ、人間いた?眩しくて見えないなあ......あっいた!いたわ!」くらいな感じなんですよねー。
そんなゆるーい設定のヴァンパイア映画なんですけど、頑張っているところもあって、今作は主人公が凄惨な現場を目撃するところから幕が開けるですけど、ここのシーンはめちゃくちゃ頑張っています。たぶんここで予算使い切っちゃったんじゃないかな。すごく雰囲気でています。
おもしろくはないんだけど、嫌いにはなれない作品です。
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『クワイエット・ボーイ』
「行方不明から5年―帰ってきたのは息子の姿をした何か」
2作目はこちら。
これはねー良いですよー。
“クランプス”という町のお祭り的行事中に失踪した4歳のトマス君という子どもが、5年後に見つかって親の下へ帰ってくるんだけどなんだか様子がおかしい......という話です。
警察から子どもが見つかったと連絡を受けて迎えに行った両親はトマスにハグをしようとするんですけど、トマスはこれを拒否するんですね。その後も祖母の髪の毛を引っ張ったり、母親に怒鳴ったりなど、愛嬌があって優しかった4歳の頃のトマス君とは全然性格が違う。
しかも、犬はトマスを見るとめちゃくちゃ吠えるし、統合失調症の青年も「あいつはトマスじゃない!」って言いだすんですよ。
でね、クランプスっていう行事なんですけど、これは大人が悪魔の扮装をして町を練り歩くっていうお祭りで、この悪魔っていうのが悪い子どもを攫っていくという設定なんですよ。
日本でいうナマハゲみたいなものですね。
だから、そんな行事中に失踪した子どもが5年後に戻ってきて、しかも様子がおかしいし、不可解なことが起きまくるっていうんだから次第にみんなトマス君を恐れていくようになるわけですね。
こいつは本当にトマスなのか?母親や祖父母まで疑うようになっていきます。なんなら悪魔であってくれとさえ思っているんですね。
でもそんな中で、お父さんだけはトマスを信じ続けます。というのもお父さんはトマスが失踪したのは自分のせいだと思っているんですよ。行事中に自分がちゃんと見ていればこんなことは起こらなかったと罪悪感に駆られていて、しかも警察に犯人なんじゃないかと疑われて町の人からも犯人扱いされて生きてきたんですよ。
そんなんだから、父親だけは半ば妄信的にトマスを愛し続けるわけです。
じゃあ、果たしてトマスの正体は......という映画なんですけど、これね、目立たないけど脚本が良いんですよ。
というのも、ホラーというジャンルの概念を上手く利用しているんです。
トマスが悪魔だと思っているのはいったい誰なのかっていうところに注目してほしいんですけど、
僕たちがホラー映画というジャンルに持っているイメージだったり先入観を利用して、お前ら高みから見てるけどこの程度の人間だからなっていう意地悪なメッセージを仕込んでくるんですよ。
伏線回収がすごい!みたいなのではないけれど、ミスリードを巧みに操る映画で、観た後に自分はなんて愚かな人間なんだろうって反省しました。
タイトルも意外とずれていないし、煽り文も良いんですよね。なんなら、便乗映画にされてしまったことがプラスにさえ働いていて、弄ばれていると気づかずに「思っているのと違った」「詐欺だ!」みたいに言って低評価を付けていることが最大のメッセージになっているという。
おすすめです。
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『クワイエット・フレンド 見えない、ともだち』
3作目はこちら。煽り文は「あなたの≪解答力≫が試される驚愕のハイコンセプト・スリラー」
まず言っておくと、そんな映画じゃなかったと思います。解答力が試されるとは?普通にそのまんまだと思うけど......
あとね、クワイエットではない!後述するけど、“フレンド”めっちゃうるさいです。
ストーリーは割と王道で、主人公の息子が空想上の友達”Z”と遊ぶようになるんだけど、それから息子のまわりで不可解なことが起きるようになって......という映画です。
”Z”って本当に空想上の友達なの?......っていう。
ストーリーだけ聞くと、さっきの『クワイエット・ボーイ』と似たような感じに思えるかもしれませんが、こっちはガッツり心霊系です。
絶賛するほどおもしろいってわけではないし、音でびっくりさせる系なのは個人的に好きじゃないけれど、物語が一転二転していくおもしろさや、話が動き始めたときのわくわく感とかはちゃんとあって、真面目に作っているという印象があります。そこはすごく良かった。
で、今作で注目してほしいのが”Z”です。
こいつがね、めちゃめちゃキモイんですよ。見た目もそうだし、なによりとにかくうるさい。
牛乳は乳脂肪分2%しか飲まない!とかパンの耳は食べない!とか、あーもう!!うるさい!!キモイ!!!
この人は何を言っているんだろう。心霊映画でしょ?と思ったあなた、観ればわかるから観なさい。
この“Z”っていう存在は、世界中にいるモラハラ男を煮詰めたような存在なんですよ。でも、まわりの人たちはそんなのいない、妄想だって言うんですね。
これ世の中に対する痛烈な批判じゃないのかな。現実問題、男って、男であるが故の優位性とか、無意識の加害性とかを認めたがらないじゃないですか。男だってつらいよの方向に話をすり替えて、問題をないことのようにするでしょ。
この映画はまさになんですよ。その上であの終わり方でしょー。これやってんじゃないかなー。
あっ!!
「あなたの≪解答力≫が試される」ってこういうことですか?
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『クワイエット・フォレスト』
「”それ”に気づかれたら、即死。」
最後、4作目はこちら。今回一番紹介したかったのがこの映画なんですよ!!
Filmarksのスコアは脅威の1.7点。今回挙げた4作の中で一番スコアが低いです。
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なんで!?めちゃくちゃ面白いやろがい!!!!!!!
なんでこんなにスコアが低いのか僕には理解できない。
たしかに全然パッケージと違うんですよ。派手さとか全くないし。
でも、これものすごく考察しがいのある映画で、これこそ『「あなたの≪解答力≫が試される驚愕のハイコンセプト・スリラー」』ですよ。
僕はけっこう怒っています。
もっと多くの人に観られるべき映画なのに、理解する気もない人たちに理不尽に低評価を付けられてゴミ映画みたいなレッテルを張られて。
今作に関しては、別で解説記事だすかもしれません。それくらい面白いです。
舞台は、おそらく突如現れた怪物によって荒廃したのであろう世界。主人公のアリゲールと妹と兄、父親の4人は森の中で4人だけで生活をしています。
で、外に出るには、怪物の影響なのかよくわからないけど、ガスマスクをしなけばいけないらしく、父親以外は外に出ることができないんです。
それでも兄弟3人で仲良く暮らしていたんですけど、ある日兄が狩りを教わるために父親と外へでることになります。しかし、家に帰ってきたのは父親だけで、それからアリゲールは父親に不信感を持ち始めます。
世界は一体どうなっているのか、人間は自分たちしかいないのか、兄は本当に死んだのか。父を疑うアリゲールの下にどんどんと驚愕の事実が押し寄せてきて......というストーリーです。
でね、今作のレビューを色々と読んでみると、「意味が分からなかった」「退屈だった」みたいなのが圧倒的に多い。
理由は明白で、派手な描写はないし、説明描写も全くなくて、怪物の正体や世界がどうなったのか、登場人物たちが何を考えていたのかなどがはっきりしないまま終わるんですよ。つまり、わかりやすい形で答えが明示されないんですね。
だから、派手なパニックホラーを期待したら「え、全然違うじゃん、なにこれ」ってなりますよね。
正真正銘の紛うことなき邦題に殺された映画です。原題は『The Darkness』ですからね。派手さなんかあるわけがない。
まあ、観た人も分かりやすいパニックホラーだと思ってみてるんだから騙された!って思う気持ちはわかりますよ。
でもさ、理解できなかったから低評価はなくないですか?理解できなかったものを理解しようとするから面白いんじゃないですか。全部説明されなきゃ分からない、考えようともしないって頭が悪すぎやしませんかね。理解しようとしたけどできなかったのなら全然良いんですよ。それもしないで低評価つけるから腹が立つんですよね。
あとさ、思ってたのと違ったから低評価っていうのもどうなの?『クワイエット・プレイス』じゃないことはわかっているんだから、方向性も違ったんならその時点で頭切り替えろよ。『クワイエット・プレイス』と間違うのはあなたが悪い。全く同じタイトルってわけじゃないんだからちゃんと確認すれば間違えないだろ。だから理解できないんだよ。思い込みで動くな。
人の数だけ感想はあるのだから、低評価を付けること自体はなにも問題ないけれど、せめて頭を働かせてみてから判断してほしいな。
じゃあ、今作がどういう映画なのかというと「不安と恐怖のなかで生まれる疑心暗鬼とその果てにある人間の醜悪な恐ろしさ」を描いた作品です。
突如現れた謎の怪物とどう戦うのかとか、この世界の秘密とは、みたいな映画ではない。
冒頭でジョージ・ゴードン・バイロンの「暗闇」が引用されることからも明らかです。
消えた兄、虫の死骸を集める妹、父親しか入れない謎の部屋、不気味な人形や姿を見せない怪物の鳴き声......
様々な謎から観客を疑心暗鬼の状態に陥れることで「暗闇」の世界を表現し、人の愚かさを剥き出しにしていくという巧みな構成。しかもそれを観客に悟らせずにラストまで持っていくいう。
伏線回収がないとか、様々な謎に意味がないっていうレビューがたくさんあるんですけど、実はこれこそが映画を読み解くヒントなんですよ。
今作を読み解くヒントは”意味がない”ことです。
これから観る人はそこを是非意識してみてください。そうすれば、監督が映画に込めた「暗闇」へのアンサーと、世界への希望が分かるはず。
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ということで『クワイエット・プレイス』に便乗したクワイエット映画4作を紹介しました。ちなみに上の画像は本家のジャケ写です。
どれも意外と悪くなかったですね。特に『クワイエット・フォレスト』は本当に観てほしいです。
2時間って長いしさ、時間を無駄にしたくないって気持ちはわかるけど、ごみと言われる山の中にこそ自分だけのお宝が眠ってたりするんですよ。
ゴミ山の中から自分だけのお宝を見つける。それがクソ映画の沼です。
時間を無駄にしたくないとか、人生は有限とかかっこつけてないでクソ映画を観なさい。どうせスマホいじって時間を無駄にしてんだから。