【感想】映画『非常宣言』コロナ禍の生活に慣れた私たちに思い出させてくれる大人としての矜持

2023年1月6日公開の韓国映画『非常宣言』の感想です。(ネタバレありです)

『非常宣言』
2023年/141分/韓国/スリラー
原題:Emergency Declaration
監督:ハン・ジェリム
脚本:ハン・ジェリム
出演:ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チョン・ドヨン、キム・ナムギル、イム・シワン、キム・ソジン
配給:クロックワークス


映画『非常宣言』オフィシャルサイト

あらすじ

娘とともにハワイ行きの飛行機に乗るパク・ジェヒョク(イ・ビョンホン)。彼らを載せたK501便はハワイへ向けて離陸するが、間もなくして未知のウイルスによるバイオテロが起きる。次々と死者が出て、逃げ場のない飛行機でパニックになる乗客たち。一方地上では、知らせを受けた国土交通省大臣のスッキ(チョン・ドヨン)は飛行機を緊急着陸させるべく国内外との交渉を始める。時を同じくして刑事のク・イノ(ソン・ガンホ)は妻がK501便に乗っていることを知り、事件の真相を追うべく動き出す。未知のウイルスを前に揉める国と人々、そうこうしている間にも犠牲者は増え、遂には燃料も底をつき墜落の危機も迫る――


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感想



■王道ながら胸を打たれる”今”あるべき物語

おもしろかった!映画館初めにふさわしい作品だった。


韓国エンタメの強さを感じさせる面白さもありながら、新型コロナウイルスを巡ってこの3年間で起きたあれこれを総括し、観客に今一度問いかける内容に予想以上に胸打たれました。


物語自体は王道のパンデミックもので、パニックになる機内、事件を追う警察、バイオテロへの国の対応という3本軸で進んでいき、最後に1本の線にまとまっていくという構成である。


早い段階で犯人が分かり、主人公も犯人が分かっている状態で物語がスタートするのでどうやって展開するんだろうと思ったけど、なるほど。犯人自体は理不尽の象徴として存在しているだけであり、事件がなぜ起こったのか等は本質ではないんだな。


テロが起きてからすぐに犯人は捕まり、そして自殺をして物語から退場する。そこから映画は事件を追うサスペンスから、極限状態での人間の心情を描くドラマへとジャンルが変わる。


同時に冗長さを解消するために映画は大味で設定もガバガバになっていく。ただ、文脈がいまの時代にジャストフィットしているため、粗が気になるよりもエモーショナルに引っ張られるパワーがあった。


ちなみに犯人役のイム・シワンはいい演技してましたねぇ。あのきっっしょいニタニタ顔が最高。


■リアリティラインの徹底がエモーショナルを生む

大味でガバガバと言いつつも、人間心理の部分だけは常にリアリティラインが崩れないような調整がされていたのも大きいかもしれない。


ウイルスに感染した疑いがある人を前にしたときの言動や、未知のウイルスを載せた飛行機を着陸させていいのか否かで揉める人々など、その展開自体はありきたりでも、観客にとって何よりも見に覚えのある現象な上、しっかりリアリティをもって描いているのでより彼らの選択というのが切に感じられるようになっている。


特に自分が死ぬ危険に晒されても乗客のために動こうとする客室乗務員や、最後まで飛行機を着陸させようと藻掻く大臣などの姿は響く物がある。自己犠牲が尊いとは思わないけど、極限状態に陥った時、何を考え何をすべきか、人が人であるための矜持とはなんなのかを今一度伝えようとする姿勢にはやはり心打たれる。


実際にダイヤモンド・プリンセス号での一件があったり、コロナ流行りたての頃にはマスクを買い占めだとか感染者を叩くような風潮があったのを体験しているわけですからね。安易に愚かな選択をする人たちを突き放せないし、内省しなければという気持ちにもなる。


このリアリティラインが徹底していることが今作の最も大きいポイントで、ウェットすぎにも感じる乗客たちの決断にも素直にエモーショナルに繋がるし、最後の最後までハッピーエンドなのかバッドエンドなのか分からないハラハラも生まれたのだと思う。


■韓国映画はやはり強し

飛行機の着陸を受け入れるか否かに対する各国の対応を見せるところは、断るまではいいとして日本は銃撃までしてきたもんだから、これまた余計なヘイト買うぞと心配になったがその後にちゃんと韓国の自国内での論争もきちっと描いていたのは良かった。


200人の命か国民の命か選べって難しいこと言うよね。あの大臣は素晴らしい心の持ち主です。


政府側の人をあそこまで良い人として描いているのも意外と珍しい気がする。


飛行機の中だけど、Wi-Fiが通っているので地上の人たちと連絡を取れるというのも現代に合わせたチューニングで地味に良かった。ビデオメッセージのくだりはいらなかったと思うけど。


エンタメ部分もよく出来ていて、前半の飛行機が360度回転する場面を中から撮った場面の恐ろしさとかは凄まじかった。


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詰め込みすぎて処理できてないなと思う部分や、さすがに後半はガバガバすぎだろとかは正直思ったけど、それよりも心に訴えかけられるメッセージの強さに惹かれた。


韓国映画はやはり強し。


余談だけど、今作を観ている間、小学生のときに実写デスノートのスピンオフ映画『L change the World』を観に行ったときのことを思い出して、あの作品もこういう風にやってほしかったなとなんだか悲しい気持ちになりました。

L change the WorLd

L change the WorLd

  • 松山ケンイチ
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